
見つめているのは、 サウナが生み出すにぎわい。
人も、地域も、すこやかに
ととのえるサウナに。
箕輪 元さん
水戸市で育ち、都内の大学に進学。就職を機に茨城に戻り、笠間市内の小学校教員として7年間勤務。以前からのサウナ好きが高じ、笠間市にセルフビルドのアウトドアサウナ「サウナ蓑蒸」を2024年6月に開業。1回約10人、完全予約制の小さな施設ながら、瞬く間に話題となり、全国からサウナ好きの人々が訪れる。
自分のお店をやってみたい。コロナ禍をきっかけに決意。
―以前は小学校の先生をされていたんですね。なぜサウナを始めようと思ったのですか?
教員という仕事にはやりがいを感じていましたし、今も素晴らしい仕事だと思っています。
開業を決意したきっかけは、コロナ禍で社会が大きく変わり、自分の生きかたを見つめ直したこと。いち教員よりも、自分で決められる裁量が大きい個人事業にチャレンジしたいと考えるようになりました。同じく教員をしている妻が「人生は1回だけ、やりたいことをやったほうがいいよ」と、背中を押してくれたことも大きかったです。
サウナを始めようと思ったのは、私自身がお風呂やサウナが好きで、頻繁に温浴施設に通っていたから。ビジネスに関してはまったくの素人でしたが、アウトドアサウナはスーパー銭湯のような温浴施設と違ってサウナと水風呂があればはじめられるし、自分でも何とかなるのではないかというイメージがわいたからです。
―笠間で開業しようと思ったのはなぜですか?
ここは両親が所有していた土地なんです。そういう意味では、開業のハードルはそこまで高くなかったというのがあります。ただ、安定した職業である教師を辞めて起業をすることに関しては、両親から心配をされましたね。時間をかけて自分の想いを伝え、最終的に何とか許可をもらうことができました。ここにある農家の裏庭のような自然や古い蔵の歴史へ想いを馳せると、「人と自然が程よく交じり合う」ことの素晴らしさが見えてきました。大自然ではなく、でも人の生活がしっかりと息づくこのまちに「銭湯のような場所ができたらもっと地域が元気になりそうだ」という考えが浮かび、さらに「施設がアウトドアだったらなおさら良さそうだ」と思うようになりました。
地域の「社交場」の選択肢のひとつに。
―オープン当初からサウナ好きの方が全国から集まってきているそうですね。運営のこだわりを教えてください。
サウナを利用する目的は人それぞれ違うからこそ、思い思いの楽しみ方に寄りそえるサウナでありたいと思っています。また偶然居合わせた人同士で会話が生まれることもサウナの魅力のひとつなので、さまざまな人が集い、交流できる地域の「社交場」の選択肢のひとつになれたらとうれしいな、とも考えています。
そんな想いがベースにあるため、サウナ室の座席は薪のサウナストーブを囲むコの字の設計になっており、程よい明るさを意識しています。会話をするにしてもしないにしても、心理的なハードルを低くする狙いです。また、お客さま自身でサウナストーンに水をかけて蒸気を発生させるセルフロウリュを体験できることなど、コミュニケーションが生まれやすい工夫もしています。
―人の手を入れすぎない、そのままの自然を満喫できるも点も魅力ですね。たとえばこの休憩用のウッドデッキは、まるで森のなかにいるかのような開放感で、木々の揺れる音や鳥の声に包まれる時間がとても心地良いです。
ありがとうございます。「サウナ蓑蒸」にとって、まさに自然はなくてはならないものだと考えていて、運営面でも環境に負荷をかけないことを大切にしています。もともとあった蔵を番台や脱衣所にリノベーションしたり、地方の銭湯から譲っていただいたロッカーを再利用したりしています。サウナ室の建材にはほぼすべて自然素材を用いるなど、資源のすこやかな循環をつねに意識しています。
ご近所の皆さんにあたたかく支えられて。
―笠間で開業する魅力について教えてください。
教員時代からずっと、笠間は良い意味で昔ながらの人のつながりが残っている地域だと感じてきました。「サウナ蓑蒸」も開業からずっと、地域の方々にあたたかく支えられています。たとえばご近所の常連さんが、遠方から来たお客さまに笠間の名所を教えていたり、「泊まるところがないならうちに来ればいいのに!」と声をかけてくださったり。さらには、ロウリュに使ってね、と定期的にお庭のミントを持ってきてくださるんです。おかげでうちのロウリュはとても良い香りのする天然のハーブ水を使えることが多く、本当に人には恵まれていると感じています。
また、茨城というと都内からは遠いイメージがありますが、県央に位置する笠間は意外にアクセスしやすく、SNSを通じてさまざまな地域からお客さまが来てくださっています。県内でも水戸や土浦、石岡、つくばなどの都市からもアクセスが良く、とても恵まれた立地だと思います。
とくにうれしいのは、地元の方と県外から来た方との交流が生まれていること。これまで接点のなかった人たちが、この場所を介して出会い、楽しく会話する様子を見るたび、この場所を開いて良かったなとしみじみ思っています。
サウナを起点に、地域がしあわせになることを。
―今後の展望を教えてください。
地域に根付き、より地域にひらかれたサウナ施設でありたいと考えています。そもそもサウナ名に自分の苗字の音を入れたのは、ビジネスと自分はどうしても切り分けられないものであり、私という個人がお世話になった土地で商売をしていくんだという想いを忘れないようにしたいと思ったからです。
そのため、サウナ施設として機能をさらに充実させていくことはもちろんですが、必ず地域の方にも喜んでいただけるかどうかという視点を大切にしています。直近で計画しているのは、敷地内に飲食店をつくること。これもただ食事を提供するのではなく、地元産の農産物を使ったメニューにする、地元の魅力的なお店に入っていただく、飲食店で働いてみたい方にチャレンジしていただくなど、何かしら地域のリソースを生かすしくみをつくりたいと考えています。
その際は、市の補助金の利用もぜひ検討したいと考えています。じつは開業時にあまり調べず、自己資金だけで賄ったため大変な思いをしました(笑)。笠間市の特産品「稲田みかげ石」活用の補助金は、店舗の施工などに利用できたらいいなと考えているところです。
飲食のほかにも、トレーニングジムや美容、宿泊など、サウナはさまざまな付帯サービスを展開できる、大きな可能性を秘めた温浴事業だと考えています。ここを起点に新たな仕事やチャレンジが生まれるなど、地域に住む方がよりしあわせになるような展開を目指したいですね。