
チャレンジできる、オルタナティブスペースでありたい
作家主体の 「実験の場」をつくっていきたい
宮本 一美さん・小堤 晶子さん・近藤 文さん
栗林に囲まれた古い豚舎を改装したスペース「ガラジ」。毎年9月には、「ガラジ ピクニックバザール」というクラフト市を開催しており、陶芸、ガラス、左官など、さまざまな作家の手しごとの品が並ぶ2日間、県内外から多くの人が集まる。最近では季節の良い月に1回、食とクラフトをテーマにした「月いちガラジ」もスタート。
はじまりは、見晴らしの良い旧豚舎との出会い。
―皆さん建築や陶芸という本業を持ちながら、ガラジのイベント運営に関わっているそうですね。笠間には全員が移住されてきたということですが、きっかけを教えてください。
宮本さん:私はもともと都内に住んでいたのですが、建築の他に木工大工の仕事もしていた関係で、あるとき仕事仲間の方から笠間の作業場を一緒に使わないかと誘われたんです。何度か通っているうちに土地の魅力に惹かれ、引っ越してきていました。
小堤さん:私の場合は、出産を機に思い切ったことをしたくなったのが移住のきっかけでした。以前は都内でデザイナーをしていて、産休明けに会社に戻る予定だったのですが、ちょうど仕事の整理がついたこともあり、大好きだった陶芸を本格的な仕事にしようと思い立ったんです。それで会社を辞めて、家族全員で笠間へ移住しました。無謀ですよね(笑)。でも、おかげで今の陶芸家の仕事につながっています。
近藤さん:私は益子で陶芸を学んだ後、家庭と仕事の都合から都内にアクセスの良い場所を探していたんです。笠間は車でも電車でも、都内へ約1~2時間ほど。焼き物の産地でもあり、都内へのアクセスも良くぴったりな場所だったことから移住を決めました。
―皆さんそれぞれの理由で移住されたんですね。ガラジは、どのようにスタートしたのですか?
宮本さん:すべては、栗林に囲まれたこの素敵な場所と出会ったことからはじまりました。ここは私の家のすぐ近くにずっとあった古い豚舎で、何年も使われていないただの広い空間だったんです。
あるとき友だちの陶芸家しがみさこさんと「ここは見晴らしが良いから、何かイベントをやってみたいね」という話になって。しがさんは陶器市だとお客さんとゆっくりお話できないので、ずっと何か場を設けたいと考えていたのだとか。そこで、2005年に大家さんにお願いして場所をお借りし、ご近所の近藤さんにも声をかけて「ガラジ ピクニックバザール」という小さなクラフト市を開催したんです。
ガレージのように広い小屋なので、名前はスペイン語読みの「ガラジ」にしました。ガラジ ピクニックバザールは1回だけのつもりでしたが、気づけば毎年の開催になっていきました。その後、笠間に引っ越してきた小堤さんも仲間に入ってくれるようになったんです。
作家がやりたいと言ったことは全部やってみる。
―近年クラフトのイベントは全国で開催されていますが、ガラジ ピクニックバザールは約20年も続いていて、県内外から通う根強いファンも多いとのこと。ご自身たちはガラジをどういう場にしたいと考えて運営されているのですか?
小堤さん:陶芸、ガラス、左官などさまざまな作家さんが関わっていますが、ギャラリーというわけではないので、他のイベントではできないことにチャレンジできる、オルタナティブスペースでありたいと考えています。
近藤さん:私たちつくり手が運営するイベントだからこそ、「自由さ」を大切にしたいという想いが土台にあります。作家さんも、お客さんも、この里山の美しい風景を眺めながら、思い思いの時間を過ごせる場にしたいと思っているんです。
宮本さん:お客さんは作家さんとおしゃべりをしたり、作品を購入したり、ただぼーっとして過ごしたっていいんです。そんな場所なので、作家さんも自由にアイデアを出して、実験的なことができるのが魅力だと思っています。
小堤さん:たとえば、新たなイベント「月いちガラジ」などで作家さんに展示を依頼したとき、作家さんが「やりたい」と言ったことは全部やってみるスタンスを取っています。展示に必要なら室内に木も立てるし、天井から何十羽のもの鳥の作品を吊るすとなったら、会期前日の夜遅くまでかかっても、一つひとつ手作業で作家さんと一緒になって設置します。何でも屋みたいなものです(笑)。
近藤さん:自分たちの本業と並行しながら運営する大変さもありますが、それ以上に得るものが大きいです。ガラジがあったからこそできるようになったことも多く、いろいろな職種の人との出会いを通じて、私自身すごく世界が広がりました。
笠間はユニークな大人が多くて、みんな労を惜しまない。
―この場所でずっとイベントを開催されていますが、笠間という土地の魅力はどこにあると思いますか?
小堤さん:陶芸家を中心に、才能のあるユニークな人が多いと思います。面白いことをしている人にばったり出会えて、一緒に何かやろうよという話になることが多いです。
宮本さん:ガラジ ピクニックバザールメンバーの皆さんも、面白いことのためには労を惜しまないですね。
近藤さん:どんなに手間や時間がかかろうと、面白いことにはみんな積極的!「好き」の気持ちで成り立っているイベントなので、マイナスなことを言う人がいないんです。
小堤さん:ガラジ ピクニックバザールや、それ以外の展示や場づくりにおいても、皆さんが力仕事、什器設置、展示補助など、いろんなことを快く引き受けてくださいます。会社のような組織でもないので、毎回お互いに無理のない範囲で集まって、ワイワイ楽しみながら準備をしています。
少しずつ手を入れて、より居心地の良い場所へ。
―これからのガラジの展開について教えてください。
小堤さん:みんなにより居心地の良い場所になるように、少しずつ設備に手を加えていこうと考えています。たとえばこの「茶室的空間」も、いま手を入れているスペースです。お茶の世界で釜の湯の煮え立つ様子を「松風」と呼ぶのですが、そんな風情を味わえる空間を目指しています。クラフト(アート)と食などのコラボレーションができるようになったのも、このスペースができたからこそです。
ちなみに水道を引く際は、市の「まちづくり市民活動助成制度」を利用させていただきました。笠間市は事業者向けだけでなく、市民参加のまちづくりを推進していて、私たちのような団体にも費用を助成いただけたのはとても助かりました。
近藤さん:おかげでとっても素敵な空間になりました。昨年秋と今春には、ガラジお茶部オリジナルの「山山茶」という清心烏龍茶ができたのですが、この景色を見ながらいただく一杯が、もう最高なんです。
宮本さん:いまメインで運営を担ってくれている小堤さん、近藤さんが、こんなふうにイベントをどんどん面白くしてくれるので、私もこの先が楽しみです。今後、年齢を重ねたらどうしても動きまわるのが難しくなると思うけれど、ここに遊びに来ればいいんだって思えるから。私は助っ人管理人として、これからも見守っていきたいと思っています。