笠間で栗を広める仕事をする
おいしいを追い求めて
栗スイーツの生みの親に。
荒井 洋子さん
水戸市出身。調理師学校を卒業後、銀行に勤めるものの料理の仕事が諦めきれず、イタリアに留学し現地レストランで修行。帰国後は実家のある笠間で料理教室を開きながら、日本・イタリアの往復生活を送る。縁あって一般財団法人笠間市農業公社に入社し、2021年より「道の駅かさま」内に同社が運営する「笠間の栗」専門のCafe & Shop「楽栗 La Kuri」の店長に。
県内を転々としていた父が、定住先に選んだ土地。
―もともと水戸市ご出身とのことですが、笠間に移ったのはなぜですか?
私の場合、自分の意志で移住したわけではなく、実家の引っ越しがきっかけでした。父の仕事の関係で幼い頃から茨城県内を転々としていたのですが、私が社会人になる頃に父が定住を決めた場所が笠間だったんです。
父は趣味の盆栽を楽しみたくて、ここを選んだみたいです。わざわざ地元の陶芸家さんに鉢を焼いてもらっていたほど、のめり込んでいたようなので。あれだけ県内のあちこちを移り住んだ末に定住を決めた場所なので、よっぽどこの土地が気に入ったんだと思います。私自身は銀行に勤めた後、イタリアで料理修行をしていて不在の時期もあるのですが、帰国後は実家で料理教室を開いたりしていて、笠間暮らしはもう15年ほどになります。
栗畑の現状を通じて知った、生産者さんの苦労。
―料理教室を開いていた間も、ときどきイタリアの修行先のレストランに行っていたとのこと。とてもフットワークが軽いですね。
よく「自由人だよね」って言われます(笑)。とにかく私、おいしいものが大好きなんです。おいしいものを食べたい! 食べてもらいたい! という想いが強くて、そのためならどこにでも行っちゃいます。今はコロナウイルスの関係で難しいですが、イタリアと日本の往復は楽しかったですね。
―そこから笠間市農業公社(地域の農業の支援事業を行う一般財団法人)に入ることになったのはなぜですか?
銀行員時代に一緒に働いていた方が農業公社にいて、たまたま誘われたのがきっかけです。当時は主に高齢化などで事業を続けられなくなった農家さんの農地を、新たに借りたい人へつなぐ業務に携わりました。料理に関わってきた立場として、生産者さんのことは気になっていたので、学ぶことは多かったですね。
その後に公社が地域の栗畑を自ら借り入れ、栗の加工品を生産する事業がスタートし、栗畑を貸したいとの相談が寄せられた土地を確認・調査しに行ったり、栗の出荷や品質のチェックを行っていました。笠間は国内有数の栗の産地として知られていますが、じつは事業継続が難しいという栗の農家さんもとても多かったんです。土づくりや草刈り、剪定など生育に手間がかかることもあり、私たちの手元においしい栗が届くまでには生産者さんの多くの努力があったんだなと実感しました。
笠間の栗の魅力を広めたい! たどり着いた新感覚スイーツ。
―2021年には「道の駅かさま」内に公社が運営する、「笠間の栗」専門のCafe & Shop「楽栗 La Kuri」の店長に抜擢されましたね。
まさか公社で料理の仕事ができるとは思っていませんでした。でも栗畑の担当もしてきましたし、私でお役に立てるなら…と務めさせていただくことに。出店にあたっては、メニュー開発から関わらせていただきました。
―メニュー開発でのこだわりは?
大切にしたのは、ひとくち食べて「栗だよね」と感じてもらえること。私たちが目指しているのは、笠間の栗のおいしさを知ってもらうきっかけをつくることです。公社がつくる栗のペーストは栗そのものの豊かな香りが魅力ですし、できるだけシンプルに素材の良さを引き出すものにしたいと思ったんです。
そして1年ほど試行錯誤して完成したのが、看板スイーツの「楽栗filo(フィーロ)」です。一見するとモンブランのようですが、土台にはスポンジではなく栗のペーストを混ぜた生クリーム、その上には洋酒や甘さに頼らない栗のペーストをfilo(イタリア語で「糸」)のように絞ります。そしてシンプルな蒸し栗を添え、お好みで甘みを引きたてる塩を振って召し上がっていただく、まさに栗を味わうためのスイーツです。おかげさまでオープン初日から連日すぐに売り切れになるほどご好評をいただいています。こだわって開発したぶん、「おいしい!」という声を聞くたびウルッときてしまいますね。
つながりを大事にしてくれるのが笠間のいいところ。
―最後に、笠間に暮らす魅力はどこにあると思いますか?
笠間稲荷や陶芸が有名な観光地なのですが、そこまで肩の力が入っていなくて暮らしやすい場所だなと感じます。また個人的には、人と人とのつながりを大事にしてくれる土地柄でもあるのかなと思っています。
というのも私、じつはコロナウイルスの感染拡大前にイタリアのレストランからお手伝いを頼まれて公社を辞めていたんです。それにも関わらず今回の「楽栗 La Kuri」オープンに際してお店をやってみない? と、再び声をかけてもらったという経緯がありました。他にも実績のある方はたくさんいるはずなのに、「おいしいものが好き」というだけの私に任せてくれるなんて、なかなかないですよね(笑)。だからこそ期待に応えられるように、新メニューの開発も含めて、笠間の栗をこれからも応援していきたいと思います。